先日、街を歩いていたら、袴姿の若い女性たちに出くわした。

どこかの大学の卒業式があったようだ。

3月は別れの季節だが、セミリタイアして社会とのつながりが薄くなった私もこの流れと無縁ではない。

それは、店子が部屋を出ていく季節だから。



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2019031701


「また誰か出ていくのかしら」とそわそわするこの時期。

今年も、管理を任せている不動産会社から、「3月末におひとり退室されます」との連絡が入った。

2017年11月に入居した人だったので、まだ2年未満。

でも相手は学生で、卒業して就職するというのだから仕方ない。

すぐに次の入居者の募集をお願いして電話を切った。


それから半月ほど過ぎたある日、次の申込みが入ったという報告を受けた。

今度の店子は20代の男性で、転居の理由は就職。

都内のフレンチの厨房で働く予定らしい。

保証会社の保証もつくのでまったく問題はない。

よかったわ、早々に店子が決まって。



私の場合、募集も家賃管理も退去もすべて管理会社にお任せなので、これまで実際に店子と会ったことは一度もない。

こちらが知っているのは名前と性別と年齢と勤め先(または学校)だけ。

契約書に写真は添付されないから、どんな顔なのかもわからないのだ。


なので、退去の連絡を受けたところで家賃収入が減る心配はしても、別れの寂しさを感じることはまずない。

新しい入居者に対しても、

「学生さんかー。青春エンジョイしてね。ちゃんと勉強もがんばれよ」

「新社会人かー。いろいろ大変だろうけどちゃんと仕事がんばれよ」

「若い女性かー。変な男につかまるなよ」

など、いったい誰目線なのかわからない想像をちょっとする程度だ。

なんちゃって大家さんなんてそんなもんよね。



だから、こういう記事を読むと目からうろこだったりする。

入居者サービス充実「大家」が増加中 野菜配布にイベント開催も
中西さんはある入居者の退去に立ち会った。
入居者は、22年間その部屋に住んでいた。すべての立ち会いと確認が終わり、手続きが終了したが、なかなか部屋から出て行こうとしない。(中略)中西さんはやんわり退去を促した。次の瞬間、返ってきた一言に言葉を失い、立ち尽くしてしまったという。
「うちの子は、ここで生まれて、ここで育って、ここから社会に巣立っていきました」その入居者にとってそこは単なる部屋でなく、人生の一部分だった。家族と過ごした幸せの空間であり、思い出の舞台だったのだ。(中略)
「大家というのはただ部屋を貸す仕事ではないんだ。お客様の人生の一部を預かる仕事だ。大家業は、なんて尊い仕事なんだ。そう思いました」
(AERA.dot 2019/3/16)

私の物件はワンルームばかりなので、記事にあるような「実家感」を持つ店子はいないはず。

でも自分の記憶をさかのぼれば、実家を出てから移り住んできた貸家には何かしらの思い出がある。

特に学生時代の部屋には思い入れも強く、社会人になってからも近くに寄ったときには意味なく様子を見に行ったりしたものだ。

そういう意味で、この記事の大家さんが最後に言った言葉には幾ばくかの真理があるのだろう。



ひるがえって、今の私にそこまでの強い使命感はない。

ただ貸しているだけだからね。

けれど店子だった人は、あの部屋に何かしらの思いを持っているんだろうなあ。

そう考えるとなんとなくうれしいもんだわ。

今月出ていく学生さんは、あの部屋でどんな思い出を作ったのかしら?

来月入居するシェフ見習いくんは、あの部屋でどんな思い出を作るのかしら?

いつか歳を取ってから、若き日々を過ごしたあの部屋をときどき思い出してほしいな。

あなたの人生に幸多かれ!…なんてね。


大家さんと僕
大家さんと僕矢部太郎

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